判例紹介③ 相続トラブル

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今回は、被相続人名義の遺言書を偽造した者に対して、特別縁故者として相続財産を分与することはできないとされた事例についてご紹介します。(名前は仮名を使用します。) 【事案の概要】 大谷さん(男性)は、死亡した被相続人の相沢さん(女性)と特別の縁故関係(内縁の夫婦)にあったとして、相続財産の分与を求めました。 しかし裁判所は、「相沢の全財産を大谷に遺贈する内容の遺言書は、筆跡鑑定の結果から大谷の偽造である」として、大谷さんの請求を退けました。 それに対し、大谷さんは、仮に遺言書が偽造であるとしても、自分と相沢さんとは仲の良い(内縁の)夫婦であり、相沢さんは自己の財産を大谷さんに遺贈する意思があったので、相沢さんは自らの意思に沿うものとしてこれを容認した、などと主張しました。 しかし、裁判所は、「仮に相沢に、財産を大谷に遺贈する意思があり、大谷がそれを認識していたなら、大谷が遺言書を偽造する必要はなかったのに、それをあえてしたという事実は、相沢には大谷に財産を遺贈する意思がなかったことを推認させる」と判示して、不法に相沢さんの相続財産を奪取しようとした大谷さんの控訴は棄却されました。                   (東京高裁 平成25年4月8日決定より) この決定は、民法第891条の5(『相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は、相続人となることができない』)によるものです。 最近、世間を騒がせているニュースに「紀州のドンファン」こと野崎幸助氏の不審死の件があります。 50億円とも言われる野崎氏の総資産、亡くなる3ヶ月前に結婚した55歳年下の若妻、愛犬の突然死、派手な出で立ちで取材を受ける家政婦、違法薬物を嫌っていた同氏の死因が急性覚醒剤中毒であること、などサスペンスドラマのような展開に、大きな注目を浴びています。 50億円と言われる野崎氏の資産の相続権者であり、野崎氏が自宅で亡くなっているのを発見された時、家にいたのが妻と家政婦の2名であったことなどから、メディアでは妻、もしくは妻と家政婦との共謀ではないかとの疑いを向ける報道が続いています。 真相は不明ですが、もし仮に妻が犯人で、野崎氏を死亡させた場合には、民法891条の1(『故意に被相続人又は相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処された者は相続人となることができない』)によると、妻は野崎氏の遺産をもらうことができないとされています。 このように、本来は相続人となる人であっても、不法行為を行った場合に相続権を剥奪される制度があり、これを「相続欠格」といいます。 相続人の全てが無条件で遺産を相続できるわけではないのです。