こんな事件がありました~交通事故事件編~

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  浅香法律事務所の弁護士西村敦です。 私が担当した事件で、こんな交通事故事件(後遺障害1級)がありました。   交通事故があったのは東京の北に位置する地方都市、被害者は70歳の大工さんです。 その被害者は、若いころは人を使って自分で工務店を経営していた棟梁なのですが、 近年は自宅から1キロ程離れた建設会社から修理仕事などをもらって細々と大工の仕事をしておりました。   被害者がその建設会社に仕事の打ち合わせに行く途中、立体交差の高架道路(国道)を横断する際、 直進してきた自動車に衝突され、頭部外傷、頸部胸部挫傷などの重傷を負い,後遺障害1級の障害が 残ってしまいました。   この交通事故の民事裁判で問題になったのは、事故現場が立体交差で自動車の往来が頻繁な高架道路上(国道片側2車線)であったことです。 加害者(保険会社)側は、被害者が過去にアルツハイマー病の診断を受けたことがあることを理由に、 被害者は立体交差の高架道路上を徘徊していて事故にあった、従って過失は全て被害者にあるし、 将来の介護費用についても元々アルツハイマー病なのだから、今回の交通事故によって特に発生しない などと主張してきました。   確かに、被害者は、近くの建設会社に仕事の打ち合わせに行くためにわざわざ立体交差をしている 高架道路にまで上がる必要はなく、その立体交差の高架道路下にある道を通って、自宅から最短距離で 仕事先の建設会社に行けばよかったのです。 私も、遠回りになるのに、なぜ、被害者がわざわざその立体交差の高架道路を通って仕事先の 建設会社に行ったのか分かりませんでしたが、まずは、被害者がアルツハイマー病の診断を受けたのが 5年以上も前であることや、事故の直前には運転免許の更新を受けていること、更に事故の直前に 出かけた温泉旅行の写真を証拠として提出し、被害者は事故当時、何らアルツハイマーの症状になかったことを立証することとしました。   次に、私は、このような片側2車線の高架式の国道を歩行者が通行できるのかを地元の警察に調査しました。その結果、この高架道路には遮音壁があるものの、道路の両端に白線が引かれており、これは路側帯で、その内側を歩行者が歩くことは何ら問題ないことが判明しましたので、その旨の「聴取書」を証拠として提出しました。  さらに、実況見分調書にあった高架道路の現場写真を見たところ、この国道には中央分離帯として二重のガードレールで対向車線と分離されておりましたが、丁度被害者が加害車両に衝突された辺りには約2mの切れ目があり、この切れ目を横断して反対側に通行することができることもわかりました。  しかし、それでもなお被害者が、なぜこのような高架道路をあえて通って仕事先の建設会社に行ったのか、どうしてもわかりませんでした。 その理由が明らかにならないと、被害者がアルツハイマーによって徘徊していた可能性を払拭できませんし、過失割合、将来の介護費用、慰謝料等裁判の結果にも影響します。  そこで、私は再度、被害者の奥さんや仕事先の建設会社に聞いてまわりました。 その結果、とうとう被害者がこの高架の国道を横断した理由がわかりました。  被害者は今では70歳の高齢で、叩き大工のような仕事をしておりますが、若い頃は棟梁として 多くの家を建て上げ、特にその中の1軒の家がこの高架道路に上がるとすぐ目の前に見ることが できたのでした。  そのため被害者は、月に何度か仕事をもらうため建設会社に向かうときは、わざわざこの高架の 道路に上って、これを横切って反対側に出て、そこから自分が若い頃建てた家を見て仕事先の 建設会社に出かけていたのでした。   この事実から被害者が決してアルツハイマーの症状で高架道路を徘徊していたのものではないことが 明らかとなり、加害車両の運転者の供述していた「高架道路を横断しようとしていた被害者を、考え事をしていて見ていなかった。」との実況見分調書の記載もあったので、過失割合や将来の介護費用について裁判所が当方の主張を認め,被害者側勝訴によって相当額の賠償金を受け取ることができました。  この事件で私は、裁判を有利に導くためには徹底的に事実関係を調査し,明らかにすることが必要だと痛感させられました。